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3−11.ボリュームのオートメーション処理 |
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一部のパートでは、DAWのオートメーション機能を使用して、ボリュームを連続的に変化させる処理を行なっています。
ボリュームオートメーションは、「音量のバラつきを無くす」「特定部分だけ音量を増減して音を聴きやすくする」「フェードイン/アウト」など様々な用途があり、一般的にミキシングで多用する処理方法です。それでは、サンプル曲ではどの様にボリュームオートメーションを行っているかパートごとに見ていきましょう。 |
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オーバーヘッド |
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オーバーヘッドのトラックでは次の2つの事が気になったのでボリュームオートメーションで処理しました。 |
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(1) |
イントロ終わり・サビ終わりのタムの音量をピンポイントで音量上げ |
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キメのフレーズの割にはタムが少し小さい感じがしたので音量を上げました。処理前後の音を比較してみましょう。(サンプル:1番サビ終わり) |
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HIタムとフロアタム共に音が大きくなり、より聴こえやすくなりました。 |
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(2) |
Bメロのクラッシュをピンポイントで音量下げ |
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R-L-Rとクラッシュシンバルを三連発するフレーズで、三発目の音が毎回大きすぎる感じがしたので、三発目だけピンポイントで音量を下げました。
処理前後の音を比較してみましょう。(サンプル:2番Bメロ) |
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迫力はそのままに自然な音量に落ち着いていますね。 |
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実際のボリューム曲線は下写真の様になります。ピンポイントでボリュームを増減してすぐに元に戻して、不自然な感じにならない様にしています。 |
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【オーバーヘッドハイハット側 ボリューム曲線】 |
通常部分を基準として、キメのタムの場所で+1.0dB〜+2.3dB、Bメロ連発の三発目のクラッシュだけ-2.8dB〜-3.5dBボリュームを増減しています。 |
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【オーバーヘッドライド側 ボリューム曲線】 |
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通常部分を基準として、キメのタムの場所で+1.0dB〜+2.5dB、Bメロ連発の三発目のクラッシュだけ-2.5dB〜-2.8dBボリュームを増減しています。 |
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スネア |
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スネアが目立ち過ぎている箇所、聴こえにくい箇所の音量を増減して、スネアの存在感が曲中で一定となるように音量を調整しました。
イントロ、Aメロ、ギターソロ部分のスネアが大きすぎる感じがしたので2.3dB下げ、エンディング付近は逆に0.5dB上げて聴こえ易くしました。
サンプルを聴いてみましょう。(サンプル:サビ〜Aメロ) |
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処理前はAメロのスネアが若干出過ぎていて歌を邪魔している感がありますが、処理後は落ち着いた音量になっていますね。 |
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【スネア ボリューム曲線】 |
セクションごとに音量を増減しています。 |
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ベース |
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ベースは、Bメロ、ギターソロ入りのオブリのフレーズをピンポイントで音量を2.0dB程度上げて聴こえ易くしています。サンプルを聴いてみましょう。(サンプル:2番Bメロ) |
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処理後は、オブリの上昇フレーズと下降フレーズがより大きく聴こえる様になりましたね。
おいしいフレーズだけを良く聴こえるように音量を上げる処理は、ミキシングにおいて一般的によく行います。特にベースやギターで非常に有効な処理です。 |
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【ベース ボリューム曲線】 |
目立たせたい部分だけをピンポイントで音量上げしています。 |
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ギター |
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Aメロでギターが大き過ぎない様に、リズムギター2トラックとも音量を1.0〜1.5dB下げています。また、ギターソロ部分ではソロの邪魔をしないように1.0dB下げています。
隠し味程度の調整です。 |
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【リズムギター1 ボリューム曲線】 |
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【リズムギター2 ボリューム曲線】 |
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サブボーカル1 |
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ギターソロに重なって入るサブボーカルは、フェードアウトとフェードインをボリュームオートメションで行なっています。 |
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【サブボーカル1 ボリューム曲線】 |
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Bメロコーラス |
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Bメロのダブルトラックのコーラスはメインボーカルの邪魔をしないように、さりげなく音量を下げる処理をしています。
「気付いたー」の歌詞の「気付」は大きい音で、「いたー」の音量を下げることで、上に重なるメインボーカルの邪魔をしないように処理しています。サンプル聴いてみましょう。 |
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処理前はコーラスとメインボーカルの存在感が同じくらいでしたが、処理後はメインボーカルが入ってからはコーラスが一歩下がった感じになっています。
フレーズの始めの部分を大きく出して、聴き手にはっきりと音の存在を認識させた後でさりげなく音量を下げると、聴感上の変化をあまり感じさせる事なく物理的な音量を下げることができます。 |
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【Bメロコーラス ボリューム曲線】 ※もう一つのトラックもほぼ同じ設定です |
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3−12.全体のバランスを考える |
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曲全体のバランスを考える際は、「縦軸:ピッチ高低、横軸:ステレオ定位」という分布図をイメージしてから作業すると、偏りのないバランスに調整しやすいです。 |
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【サンプル曲 ミックスイメージ図】 |
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この様なイメージをあらかじめ決めておくと、音が同じ周波数帯域・同じ定位でダンゴ状態になるのを防いで、分離の良いバランスを作る事ができます。 |
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イメージ図通りのバランスになっているでしょうか? |
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3−13.ミキシングでよくある質問 |
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ミキシングについて質問されることが多い事柄をQ&A形式で列記します。
Q. |
D,B,G,Vのバンドですが、まず最初にどのパートからミキシングを始めれば効率が良いですか? |
A. |
ドラムから作業を始めるのがおすすめです。
ギターやベースから調整を始めても良いのですが、「単体で聴くと良いが、他と合わせるとバランスがイマイチ」という状態に陥りやすい様に感じます。完成形に近いドラムの音に合わせて他楽器を調整した方が、バランスを取りやすいと思います。 |
Q. |
バスドラムとベースの分離が悪い。 |
A. |
バスドラムの高域を調整してアタックを強調してみましょう。
低音楽器は音量を上げても音がはっきり聴こえないため、この問題が起こりがちです。こういった場合は低域をいじるのではなく、バスドラムの高域成分を調整してアタック感を強調してみましょう。それにより、低域を不必要に強調しなくても明確にバスドラムの演奏が聴こえて、結果としてベースと分離している様に聴かせる事ができます。 |
Q. |
スネアの音の抜けが悪い。市販の音源の様な音にならない。 |
A. |
アタックを強調してみましょう。
スネアが抜けの良い音にならない原因の多くは「ショットが弱い事によるアタック不足」です。本当はレコーディング段階でアタック感に気を使って演奏するのがベストなのですが、そうもいかなかった場合はエフェクトを駆使してアタックを強調する処理を行ないます。この処理にはコンプレッサーを使用する事が多いです。「高レシオ、アタック遅め」で強力に圧縮をかけて「バイーン」という音にしたあと、リリース値の設定値を調整してスネアの余韻を引っ込めて「バイン」という音にするとアタック感が強調されて聴こえ易くなります。 |
Q. |
バスドラムの音を「ベチベチ」「バチバチ」の音にしたい。 |
A. |
別トラックにエフェクトでアタック音だけを別に作り、通常のバスドラムの音に混ぜましょう。
SlipKnotやMetallicaの様な極端にベチベチしたバスドラムの音はノーエフェクトでは難しいです。ここは素直にエキサイターなど歪み成分を人工的に作り出すエフェクターを使用しましょう。
バスドラムのトラックをコピーしてもう一個エフェクト専用のトラックを作り、「バチッ」「バキッ」という音だけをノーマルなバスドラムの音に混ぜていく方法にすると調整しやすいです。アタック音は、バスドラの音をEQで低域を思い切りカットしたあと、歪みエフェクターで高次倍音を人工的に作り、最後にゲートで音の長さを短く切って作り出します。これをノーマルトラックに混ぜる際には、DAWの位相調整機能でトラックの再生タイミングを微調整して「アタック〜胴鳴り」の時間関係が自然な感じになる様に注意します。 |
Q. |
全部の楽器をミックスしたらベースがイマイチ聴こえなくなった。音量を上げても聴こえない。 |
A. |
1kHz周辺を強調してみましょう。
ベースは低音楽器だからといって低域ばかり強調しても「聴こえる音」にはなりません。1kHz周辺を強調すると聴こえが良くなります。ただし、ベースラインがギターと同じ音をなぞる様な曲の場合、ギターと重なりあってベースがハッキリと聴こえなくなるのは当然の事ですので、そういう曲ではあまり分離を気にしなくても良いような気もします。”聴こえなくなった=一体になった”とプラスに解釈する事もできます。 |
Q. |
バッキングのギターを1本しか録っていないが、迫力と広がりを出したい。 |
A. |
トラックをコピーして擬似的にギターを2本にして、PANを左右に広げてみましょう。
バッキングが1本しかなくて寂しいと場合は、トラックをコピーして2トラックにしてギター2本の状態を擬似的に作り出すと良いです。この際、同じ音を単純にコピーしてPANを左右に広げてもステレオにはなりませんので、一方のトラックの再生タイミングをディレイや位相調整機能を使って10〜15msecくらい遅らせてからPANを左右に広げます。これでギターが2本入っている様に聴こえます。タイミングを遅く設定した方が広がりの幅は大きくなりますが、遅くしすぎると演奏がずれて聞こえるので注意が必要です。
モノラルのトラックをステレオに広げる既製のエフェクター(ステレオエンハンサー等)を使うのも良いでしょう。 |
Q. |
録音時にギターを歪ませすぎた。なんとか歪みを軽減したい。 |
A. |
EQを使用して、2.5kHz、3.6kHzあたりを狭いQでピンポイントでカットしてみましょう。
聴感上の歪み感は2.5kHz付近の「ジージー成分」や3.6kHz付近の「シーシー成分」がキーポイントとなっていますので、ここをピンポイントでカットすると歪みが減ったかの様に錯覚させる事が出来ます。しかし、録音時に歪ませすぎた音を修正するのは基本的には困難ですので、素直に録り直した方が早い場合も多いです。 |
Q. |
最高の出来だと思って仕上げたのに、次の日聴いてみたらそうでもなかった。なぜこういう事が起こるのでしょう? |
A. |
長時間作業していると感覚が狂うから...でしょうか。
この現象は本当に良く起こります。逆に「昨日は最低だと思ったのに、今日はそんなに悪くないと感じる」ということもあります。
長時間集中してミキシング作業をすると、「感覚が研ぎ澄まされて些細な事でも気になる」「感覚が鈍って結構重大な事でも気が付かない」など、感覚に狂いが生じるのが原因ではないでしょうか。
どんな人間でも感覚を常に一定に保つ事は不可能であり、聴覚は身体・心理状態に大きく左右されるものと思います。
この問題の対処法としては、「感覚の狂いは防げないので、数日かけて作品を仕上げる」というのがベストであると現状は思っています。焦って短時間で完成させようとせず、時間をかけて作品を見直して「いつどんな状態で聴いても良い」と思える仕上がりになった時が、その作品の完成形なのではないでしょうか。(これは当スタジオがお任せミックスの納期を長めに設定している理由の一つでもあります) |
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以上で講座は終了です。少しでも皆さんのお役に立つ内容があれば幸いです。
最後まで読んでいただき有難うございました。 |
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